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東京ラスク社員であり大の映画好きな私 Haruが、「おやつのお供に観たい映画」をご紹介していくこのブログ。
映画について語りつつ、ラスクに合う楽しみ方もちょっと添えて。
ぜひ、ラスクとお気に入り映画で心ほどける時間をお過ごしください。
第69回では、国王の退位を機に民主化することになったブータンで、初めての選挙に戸惑う人々の姿をユーモラスに描いたヒューマンドラマを紹介します。
心温まる物語を飄々としたユーモアで紡ぎながら、本当の幸せとは何かを問いかける作品です。
第96回アカデミー賞国際長編映画賞ブータン代表作品としてショートリストに選出されました。
○お坊さまと鉄砲(2023年製作)
スタッフ・キャスト
監督:パオ・チョニン・ドルジ
タシ役:タンディン・ワンチュック
ベンジ役:タンディン・ソナム
ロン役:ハリー・アインホーン
~あらすじ~
2006年のブータン。国民に愛された国王の退位によって民主化への転換を図るため、選挙の実施を目指して模擬選挙が行われることになる。周囲を山に囲まれたウラの村の高僧はこの報を聞くと、次の満月までに銃を二丁用意するよう、若い僧に指示する。そのころ、“幻の銃”を探しにアンティークの銃コレクターがアメリカからやって来て、村全体を巻き込む騒動が巻き起こる。
引用:MOVIE WALKER PRESS(https://press.moviewalker.jp/mv87454/)
◆見どころポイント◆
①村人たちの戸惑いが映す「伝統と変化」の相剋
この映画の大きな魅力は、制度の大転換が「日々の暮らしの目線」から描かれることです。
王政から民主主義へ-紙の上では一文で済む変化が、村では突然の“新しい作法”になって降りてきます。
投票のやり方を教わっても、なぜそれが自分の幸せにつながるのかは、簡単には結びつかない。
そんな戸惑いが、笑いと温もりをたたえた筆致で、肩の力を抜いて描かれます。
選挙の練習に集まる人々、役場の説明に首をかしげるお年寄り、遠回りに本音をこぼす若者たち。彼らの会話は軽妙ですが、ふとした沈黙や視線に、長く守ってきた暮らしの誇りとそれが変わっていくことへの不安がのぞきます。
お坊さまが鉄砲を探すという一見不思議な筋立ては、伝統の場に「まったく異質なもの」が持ち込まれる瞬間を象徴し、村全体に波紋を広げます。
その波紋は、誰かを断罪するのではなく、観客をふくめた全員に問いを返します。
民主主義はたしかに良い制度でしょう。でも、それだけで誰もがすぐに幸せになれるわけではない-映画はそこまで急かすことなく、「変わること」と「変えないこと」の折り合いを、生活の細部からていねいに照らします。
制度よりも先に、人の心がゆっくり動いていく。その速度を尊重する眼差しが、見ていて心地よく、見終わってから考えさせる力を持っています。
②お坊さまと鉄砲、そのギャップが生むユーモアとぬくもり
落ち着きの象徴であるお坊さまと、騒がしさの象徴である鉄砲。この取り合わせが、本作のユーモアの核です。
厳粛さと物騒さ、祈りと火薬、沈思と騒擾-ふたつの遠い要素が出会うことで、場面ごとに軽いズレが生まれ、自然と笑いがこぼれます。
けれどその笑いは誰かを見下す種類のものではありません。
村のひとりひとりが“自分の正しさ”を信じ、その正しさを大切に持ち寄るからこそ、ちょっと不器用で愛らしいずれが生まれるのです。
さらに、外からやって来た人たち-珍しい銃を追うコレクター、役目に追われる役人-の存在が、村の小さな円環に別の温度を持ち込みます。
彼らの視点が加わると、同じ風景が違って見え、物語に軽やかな躍動感が生まれます。
カメラは山の稜線や薄灯りの室内、土間の音や風の気配までやわらかく拾い、大きな事件が起きなくても心が動く瞬間を丁寧に紡ぎます。
ユーモアは常に人への敬意とセットで、観客は笑いながら登場人物に寄り添い、彼らの選択を応援したくなるはずです。
楽しくてハートウォーミング。しかし軽いだけではない、そのやさしいバランス感覚が光ります。
③「民主主義=幸せ?」への静かな異議申し立て
作品全体を貫くのは、「民主主義は良いんだろうけど、幸せの十分条件ではない」という、率直で健全な疑問です。
投票箱が届き、ルールが整っても、そこで生きる人の心が明日から突然変わるわけではありません。
映画は、制度移行の眩しさに酔わず、「それが私たちの暮らしにとってどういう意味を持つのか」と至極真っ当な問いを置きます。
鉄砲というモチーフは、その問いを多層に映します。
力の象徴であり、歴史の記憶であり、憧れでも畏れでもある。
それを仏門の世界に持ち込むことで、法と信仰、共同体と個人、過去と現在が交差し、変化の痛みと必要が同時に浮かびあがるのです。
とはいえ、映画は声高にメッセージを叫びません。ユーモアで緊張をほぐし、温かさで人を包み、でも同時に強い疑問の目線を手放さない。
たとえば“模擬選挙”の風景は軽妙に描かれますが、そこで交わされる言葉の端々に、本音と建前、制度と実態のズレが滲みます。笑ったあと、ふっと胸に残る違和感-その余韻が、観客の中で「本当の幸せとは何か」という自分ごとの問いへと転じていきます。
誰かの正解に乗るのではなく、自分たちの速度と足元を見つめ直す。楽しさと批評性が同居するこの手触りこそ、本作を特別な一本にしています。
まとめ
『お坊さまと鉄砲』は、笑いとやさしさで包みながら、制度の正しさと暮らしの実感の間にある距離をていねいに見つめる映画です。
お坊さまと鉄砲という大胆な取り合わせは話題性だけではなく、伝統と変化の交差点に立つ人の心を見事に象徴しています。
民主主義の価値を否定せず、それでも「それだけでは足りない」と静かに考えさせる姿勢は、ユーモアに守られながらも鋭く、見終わってから長く残る余韻を生みます。
それでは、映画とともに 素敵なラスク時間を







