皆さん、こんにちは!
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東京ラスク社員であり大の映画好きな私 Haruが、「おやつのお供に観たい映画」をご紹介していくこのブログ。
映画について語りつつ、ラスクに合う楽しみ方もちょっと添えて。
ぜひ、ラスクとお気に入り映画で心ほどける時間をお過ごしください。
第52回では、英国の名門家に一生を捧げてきた老執事が自身の半生を回想し、職務に忠実なあまり断ち切ってしまった愛を確かめるさまを描いた人間ドラマを紹介します。
第66回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞など計8部門にノミネートされた名作です。
原作はイギリス在住の日本人作家でノーベル文学賞も受賞しているカズオ・イシグロです。
○日の名残り(1993年製作)
スタッフ・キャスト
監督:ジェームズ・アイヴォリー
スティーヴンス役:アンソニー・ホプキンス
ミス・ケントン役:エマ・トンプソン
~あらすじ~
1958年、オックスフォード。ダーリントン卿の屋敷で長年に渡って執事を務めてきたスティーブンスは、主人亡き後、屋敷を買い取ったアメリカ人富豪ルイスに仕えることに。そんな彼のもとに、かつてともに屋敷で働いていた女性ケントンから手紙が届く。20年前、職務に忠実なスティーブンスと勝ち気なケントンは対立を繰り返しながらも、密かに惹かれ合っていた。ある日、ケントンに結婚話が舞い込み……。
引用:映画.com(https://eiga.com/movie/48408/)
◆見どころポイント◆
①抑えこんだ感情が伝わってくる名演技
この映画の核は、言葉よりも「沈黙」が雄弁なことです。
アンソニー・ホプキンス演じる執事スティーヴンスは、節度と規律の塊のような人物。眉のわずかな動き、カップを置く間合い、視線の逸らし方といった微細な所作だけで、心の揺れを観客に伝えます。
彼が「仕事」を楯にして思いを押し殺すたび、空気がきゅっと締まり、未言の感情が濃くなります。
対するエマ・トンプソン演じるのミス・ケントンは、温かさと鋭さを併せ持ち、硬く閉ざされた相手の扉に何度もノックする役回り。
ふたりの会話は穏やかでも、その裏には誤解と願望、ためらいと期待が幾重にも重なり、観る側の胸を静かに掴み続けます。
派手な対立や涙の展開はありませんが、だからこそ一つひとつの仕草がクローズアップされ、感情の解像度が上がる。
余白を信じる演出と俳優の呼吸が重なり、観客は「言わないこと」からすべてを読み解く楽しさと深さを味わえます。沈黙すら見逃せない時間に変わる、成熟した演技合戦が魅力です。
②プロフェッショナリズムの光と影
「よい執事」とは何か。この映画は、仕事の矜持を真正面から描きます。
スティーヴンスは主人の意志を完璧に遂行することこそ職業倫理だと信じ、どんなときも自分の感情を業務の外に置こうとします。そのストイックさは圧倒的に美しく、長年の経験に裏打ちされた判断、場の空気を整える技、チームを支える背中は、どの職業にも通じるプロの理想像です。
一方で、忠誠が過ぎると「判断の放棄」に陥り、倫理や歴史の重みから目を背ける危うさも浮かび上がります。
自分の行為が何を支え、何に加担するのか。役割を極めるほど、役割の外にある責任が問われる。
映画は説教臭くはありませんが、静かなズレや後悔の気配を通して、働く私たちに等身大の問いを返します。
さらに、職場の中でのコミュニケーションや人材育成、境界線の引き方といった実務的な視点も豊かです。部下への目配り、適切な距離感、機密の扱い。小さな判断の積み重ねが組織の品位を形作ることが、丁寧に映し出されます。
仕事を愛する人ほど胸に響く、人間と職業の関係の物語でもあるのです。
③光、影、音で描く「時間」の肌ざわり
映像と音が、物語のテーマである「時間」と「記憶」をそっと触知させます。
柔らかな自然光が古い邸宅の木目を撫で、霧にけぶる庭園が遠い日々の輪郭を滲ませる。扉が開閉する音、廊下に広がる足音、銀器が触れ合う微かな響きまで、音響設計は執務のリズムと心の律動を一体化させます。
ジェームズ・アイヴォリー監督らしい節度ある構図と長めのショットは、観客に考える余白を残し、登場人物の背中に寄り添う視線を貫きます。
過去と現在を行き来する語りは滑らかで、ロードムービー的な旅の時間が、回想にリアリティを与えます。
英国の田園風景、季節の移ろい、屋内の温冷の色調の対比が、感情の温度差を視覚的に伝えるのも見事です。
音楽は過剰にならず、静けさを尊んでいます。だからこそ、ふいに差し込む旋律が胸の奥に響きます。
大きな演出ではなく、光の角度、カーテンの揺れ、手袋の布感といったディテールの積み重ねで、取り戻せない時間の気配が立ち上がる。美術・衣装・撮影が三位一体となり、気品と郷愁をまとった世界へ観客を招き入れます。
まとめ
『日の名残り』は、抑制の効いた演技と端正な演出で、人が「よく生きる」とは何かを静かに問いかけます。
仕事への誇り、歴史の重み、言葉にしなかった思い。どれも声高ではないからこそ、観る人それぞれの現在に重なり、じわりと響きます。
派手な出来事よりも、日々の所作や判断の積み重ねに尊さを見出すーそんな成熟した鑑賞体験を求める方に、深い余韻を約束する一本です。
それでは、映画とともに 素敵なラスク時間を







