~A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.50

~A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.50

皆さん、こんにちは!
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東京ラスク社員であり大の映画好きな私 Haruが、「おやつのお供に観たい映画」をご紹介していくこのブログ。

映画について語りつつ、ラスクに合う楽しみ方もちょっと添えて。
ぜひ、ラスクとお気に入り映画で心ほどける時間をお過ごしください。



第50回では、静かな家に留まる“シーツの幽霊”が、愛と時間の流れを見つめ続ける、喪失と再生の瞑想的ドラマを紹介します。
完璧な、最高のラストが物語を包み込みます。

夫婦の名前も明かされず、シーツを被った幽霊が妻を見守る姿を淡々と描いた、今や第一線のスタジオ"A24"発の異色作です。


○A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー(2017年製作)



スタッフ・キャスト

監督:デヴィッド・ロウリー


C役:ケイシー・アフレック
M役:ルーニー・マーラ

~あらすじ~
若い夫婦のCとMは田舎町の小さな一軒家で幸せに暮らしていたが、夫Cが交通事故により突然他界する。病院でCの遺体を確認し、シーツを被せ病院を去る妻M。すると死んだはずのCがシーツを被ったまま起き上がり、自宅に戻る。Mは幽霊となったCの存在に気付かないが、Cは悲しみにくれるMを見守り続けた。やがてMは前に進むためあることを決断。Cは妻の残した最後の思いを求めてさまよう。

引用:MOVIE WALKER PRESS(https://press.moviewalker.jp/mv65988/)



◆見どころポイント◆


①沈黙と余白が感情を増幅する、極限までそぎ落とした演出

 本作の魅力は、言葉や説明を徹底して抑えたミニマルな演出にあります。

 正方形に近い1.33:1のアスペクト比に丸みを帯びたフレームが、画面の外へと広がる世界を意識させながらも、まるで古い写真立ての中を覗き込むような“記憶の額縁”を作り出します。

 動かないカメラによるロングショットが呼吸する時間を与え、観る側に感情の余白を委ねます。
 ルーニー・マーラ演じる妻が静かに、強く、哀しみを“体で食べる”ように受け止める長尺の一幕は、その象徴。説明的な台詞の代わりに、沈黙や視線、空いた空間が語りかけてきます。

 さらに、シーツを被った幽霊という幼い造形をあえて採用することで、ホラーらしさを脱色し、痛みの普遍性と愛の残響へと焦点を絞ります。

 顔のない存在に灯りや影、わずかな重心移動だけで感情を宿す巧さは圧巻。

 派手な演出に頼らず、日常の光と音、待つ時間そのものを見せることで、喪失の実感がじわりと染み込むー静かに観るほどに、心の奥がざわめく一作です。


②“家”が記憶の容器となる、時間を横断する物語体験

 物語の舞台はほぼ一軒の家のみ。この閉じた空間が、やがて時間の広場へと変わっていきます。

 幽霊はそこに留まり、住人や季節が移ろうさまをただ見つめ続ける。ドラマティックな出来事を積み上げるのではなく、編集や視点の置き方で“時間の層”を重ねていくことで、人が住まいに残す痕跡や、場所が人に残す残響が浮かび上がります。

 壁の傷、置き去りの小物、ふとした音ー些細なディテールが人生の手触りを運び、言葉で語られない物語を編み上げるのです。

 幽霊が動かないからこそ、私たちは“移り変わるもの”を見ることになる。そこに、手放すことと遺すことをめぐる静かな問いが生まれます。

 時間感覚そのものを演出として体験させる構造は、映画史の中でも稀有だと思います。

 観終わって振り返ると、自分自身の住んだ部屋、通った道、そこで交わした会話の温度まで呼び戻されるーあなたの記憶が反響する映画になっています。


③音と“視点”がもたらす没入ー音楽・サウンドデザインの恍惚

 デヴィッド・ロウリー監督とダニエル・ハートのコラボによる音楽とサウンドデザインは、第2の物語とも言えます。

 微かな環境音、低く唸るようなドローン、窓や床のきしみが、幽霊の“在るのに触れられない”存在感を可聴化する。そこへ、劇中で反復される曲が記憶のトリガーとして機能し、場面の感情が過去と現在を行き来します。
 映像は抑制的でも、音は情動の流れを精密に導き、静かなカタルシスへと到達させるのです。

 さらに、本作は幽霊の視点に徹することで、近づけない距離、言葉を掛けられないもどかしさ、ただ見守るしかない優しさーそんな受動の倫理を体感させます。
 怖がらせるためではなく、他者の時間に耳を澄ます幽霊。その独創的な設計が、ホラーでも純愛でもSFでもあるような、多層のジャンル感を生み出します。

 イヤホン視聴でも劇場でも、音のレイヤーに身を浸すと、物語が身体感覚として腑に落ちるはずです。



まとめ

 『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』は、派手なプロットの起伏ではなく、時間の流れそのものをドラマに変える映画です。
 シーツの幽霊という素朴なアイコンは、怖さではなく普遍性を与え、誰もが抱える記憶と向き合わせてくれる。
 静かな作品ですが、心に届く衝撃は大きい。
 少ない言葉で多くを語る映画を求めている方に、強くおすすめします。

 それでは、映画とともに 素敵なラスク時間を

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