~アナザーラウンド~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.48

~アナザーラウンド~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.48

皆さん、こんにちは!
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東京ラスク社員であり大の映画好きな私 Haruが、「おやつのお供に観たい映画」をご紹介していくこのブログ。

映画について語りつつ、ラスクに合う楽しみ方もちょっと添えて。
ぜひ、ラスクとお気に入り映画で心ほどける時間をお過ごしください。



第48回では、デンマークの教師4人が飲酒実験に挑む群像劇を紹介します。
コロナ時代の当時の現実にも共鳴しながら、笑いと痛みが交差する傑作です。

第93回アカデミー賞では監督賞にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞しました。


○アナザーラウンド(2020年製作)



スタッフ・キャスト

監督:トマス・ヴィンターベア


マーティン役:マッツ・ミケルセン
トミー役:トマス・ボー・ラーセン
ニコライ役:マグナス・ミラン
ピーター役:ラース・ランゼ

~あらすじ~
冴えない高校教師マーティン(マッツ・ミケルセン)と同僚3人は、ノルウェー人哲学者の“血中アルコール濃度を一定に保つと、仕事の効率が良くなり、想像力がみなぎる”という理論を証明するため、実験を行うことに。朝から飲酒を続け、常に酔った状態を保つことで授業も楽しくなり、生き生きとしてくる。だが、すべての行動には結果が伴うのだった……。

引用:MOVIE WALKER PRESS(https://press.moviewalker.jp/mv73152/)



◆見どころポイント◆


①コロナ禍と欧米のアルコール問題を真正面から捉えた、タイムリーで鋭いテーマ性

 本作の核は、アルコールが持つ二面性の徹底的な観察です。

 コロナ禍以降、欧米で深刻化した家庭内飲酒の増加、孤立と不安からの逃避、そして「気分が上向きになったことへの依存」という現象を、道徳的な断罪ではなく、冷静で人間的なまなざしで描きます。

 主人公たちは、仕事の停滞や家庭の摩耗に押しつぶされそうな中年の教師。彼らが酒の力で「自信のなさや不安、ストレスから逃れる」瞬間は、実に甘美で、同時に危うい。

 最初は頬を紅潮させるほどの活力をくれた酒が、やがて「またアルコールの力を借りないと人生を楽しめない」という錯覚を生み、その愚かしさとどうしようもない衝動の複雑さが浮き上がります。

 監督トマス・ヴィンターベアは、ユーモラスでエッジィ、切なくて暗いトーンを巧みに往復させ、教室や食卓といった日常の場に社会の病理をにじませています。

 飲酒を擁護も否定もせず、人の弱さと尊厳が同居する現実を提示する姿勢が、タイムリーなテーマを一過性の問題ではなく普遍的な問いに引き上げています。

 ポストコロナ時代に生きる私たち自身の鏡として機能し、観客が「自分ならどうするか」を自然に考えさせる力があります。


②斬新で研ぎ澄まされた演出ー笑いと痛みの振幅が生むカタルシス

 ヴィンターベアの演出は、軽やかなユーモアと冷徹な観察の緊張が要です。

 序盤、教師たちが「規律ある微酔」を計測しつつ日常に溶かし込むリズムは小気味よい編集で加速し、授業が冴え、会話が弾む「勢い」を観客にも体感させます。

 ところが、カメラは手持ちの揺れや俯瞰の間合いを使い、笑いの背後に忍び寄る不安を徐々に可視化していきます。

 ユーモラスでエッジィ、切なくて暗いという印象は、まさにこの振幅の設計から生まれます。

 本作が優れているのは、依存のメカニズムを「逸脱の瞬間」だけでなく「気分が上向く成功体験」から辿る点です。
 微酔のイノベーションは一時的に創造性と自信を与えますが、再び同じ高揚を求める循環も同時に生み出しています。

 映画はその快楽の説得力を認めた上で、境界が揺らぐときに起こる判断の鈍化、関係の破綻、自己像の崩れを、過度な悲劇化に陥らず淡々と積み重ねます。

 だからこそ、観客は登場人物の選択に納得しつつ、痛みも共有してしまう。
 映像、編集、音楽のトータルデザインが、笑顔の後に訪れる沈黙の重さを刻印し、終始、カタルシスと反省を同時に喚起します。


③マッツ・ミケルセンの圧倒的な演技

 主演のマッツ・ミケルセンは、日本でもとても人気のある俳優ですが、本作は間違いなく彼のキャリアハイな演技を見せてくれる一本です。

 内面の空洞と再起の可能性を、息遣いと視線の微細な変化で表現します。
 冒頭では肩の落ち方、目の焦点の曖昧さ、話すテンポの鈍さが疲れた教師像を表現し、微酔が始まると、頬に血が通い、背筋が伸び、声に弾みが戻るーその「回復のように見える兆し」を、観客に説得力をもって体感させます。

 彼の演技があるからこそ、酒の効用が単なる幻想ではなく、短期的には実在する救いとして認識されるのです。
 ゆえに後の揺り戻しがより痛切になります。

また、主人公以上に悲痛な運命をたどるトミーを演じたトマス・ボー・ラーセンの演技も素晴らしく、物語を強く強く支えています。

 俳優陣の存在感が、作品全体を名作の水準に押し上げていることは間違いありません。



まとめ

 『アナザーラウンド』は、飲酒をめぐる安易な善悪ではなく、人が不安やストレスから逃げたくなる衝動の複雑さを、笑いと痛みのリズムで描き切った一本です。
 タイムリーな社会的背景を映しながらも、普遍的な人間の痛みを描いています。
 見終わったあとには、お酒だけでなく自分の生活のスピードや重心について、静かに考え直したくなるはずです。

 それでは、映画とともに 素敵なラスク時間を

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