~あなたを抱きしめる日まで~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.37

~あなたを抱きしめる日まで~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.37

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東京ラスク社員であり大の映画好きな私 Haruが、「おやつのお供に観たい映画」をご紹介していくこのブログ。

映画について語りつつ、ラスクに合う楽しみ方もちょっと添えて。
ぜひ、ラスクとお気に入り映画で心ほどける時間をお過ごしください。



第37回では、無理やり引き裂かれてしまった息子を捜すアイルランド人の主婦が、元エリート記者の男との旅を通して不思議な友情で結ばれていくさまを描く、実話をベースにしたヒューマンドラマを紹介します。

主演のジュディ・デンチの素晴らしい演技で感動を呼び、第86回アカデミー賞で作品賞、主演女優賞、脚色賞、作曲賞の4部門にノミネートされました。


○あなたを抱きしめる日まで(2013年製作)



スタッフ・キャスト

監督:スティーヴン・フリアーズ


フィロミナ役:ジュディ・デンチ
マーティン役:スティーヴ・クーガン

~あらすじ~
主婦のフィロミナはある日、娘のジェーンに50年間隠してきた秘密を打ち明ける。10代の時に未婚のまま妊娠した彼女は、修道院に入れられたあげく、出産した息子アンソニーを3歳の時に金銭と引き換えに養子に出されてしまっていたのだ。ジェーンは母親のために、元ジャーナリストのマーティンに話をもちかけ、2人でアンソニー捜しの旅に出る。

引用:MOVIE WALKER PRESS(https://press.moviewalker.jp/mv54167/)



◆見どころポイント◆


①調査サスペンスと人間ドラマが噛み合う“ロードムービーの推進力”

 本作の牽引力は、母が失った「真実」を求める調査のスリルと、二人が距離を詰めていく人間ドラマが見事に噛み合うところにあります。

 皮肉屋の元記者マーティンと、敬虔で素朴なフィロミナという対照的な二人が、アイルランドの修道院から米国へと足を伸ばし、半世紀分の手がかりを少しずつ手繰り寄せていく。
 新聞記事のタネを追うような地道な聞き込み、記録の照合、偶然の端緒が繋がって見えてくる「像」。構成は緻密で、観客は謎解きのスリルと同時に、彼女の胸中に蓄積した年月の重さを追体験します。

 しかし、行程は重苦しさ一色にはなりません。機内やホテルの何気ない会話、人生観の違いが生む軽やかな笑いが、長い旅の呼吸を整え、ドラマを前に押し出します。

 記者の冷徹な合理と、母の信仰に根ざした直感。その衝突と相互作用が「事実を知ること」と「それをどう受け止めるか」を二重に照らし、単なる告発譚に留まらない深みを生んでいます。最後まで引き込まれる展開の原動力は、この二人旅の化学反応にあるのです。


②社会の闇を“断罪”だけで終わらせない、気品ある批評性

 物語の背景にあるのは、当時のアイルランドで行われた若年女性と子の切り離しという痛ましい現実です。

 映画は制度や権威の加害性を正面から見据えますが、声高な糾弾にせず、静かな観察眼で人間と組織の複雑さを描き出します。

 修道院の廊下に満ちる冷たい空気、記録の欠落が生む沈黙、丁寧な言葉遣いの裏に見える不均衡な力学。そうしたディテールが雄弁に語るからこそ、観客は自分の尺度で不正義を測り、問いを引き受けることになるのです。
 カメラは人物の表情と間合いを崩さず、音楽も感情を煽り立てない抑制を守る。

 アレクサンドル・デスプラのスコアが徐々に心を温め、怒りと悲しみの温度差を受け止める器となります。

 さらに、描かれるのは「制度対個人」という単純な図式ではなく、信仰に支えられた善意がいつ、どうやって境界を越えてしまうのかという普遍的な命題です。過去の傷に光を当てつつ、現在を生きる私たちに「赦すこと」と「忘れないこと」を同時に考えさせる。
 批評性とヒューマニティが同居するからこそ、見終えたあとに静かな余韻が長く残ります。


③ジュディ・デンチが体現する“強さと可笑しみ”の二重奏

 ジュディ・デンチの演技は、役柄を「聖女」にも「被害者」にも固定しません。

 柔らかなユーモアと素朴な好奇心、そこに時折のぞく頑なさや小さな偏見までも等身大に抱え込み、ひとりの生身の人間としてのフィロミナを立ち上がらせます。
 目の湿り具合、息を飲むわずかな間、微笑ににじむ揺らぎー大きな泣きや怒りに頼らず、微細な表情の変化で半世紀の時間を語る技。

 会話のテンポやアクセントには土地の響きが宿り、冗談を言うときの間合いは見事に軽快。ときに恋愛小説を嬉々として語る可笑しみが、重い主題に風通しを与えます。

 一方で、核心に触れる場面では、肩の落とし方や手の置き場といった身体の重心だけで覚悟を伝える。信仰を持つ人の言葉の選び方、その奥に沈む傷の深さを、過剰に説明せず滲ませるのです。

 相棒役のスティーヴ・クーガンとの掛け合いも絶妙で、彼の皮肉に柔らかく返す受け、たまに鋭く刺す一言のキレ味。
 笑いと痛みを行き来する振幅の広さが、映画全体のトーンを決定づけています。
 デンチのフィロミナに出会うこと自体が、この作品を観る大きな理由になります。



まとめ

 『あなたを抱きしめる日まで』は、実話が持つ重さを抱えながらも、ユーモアと抑制の効いた語り口で「知ること」と「赦すこと」の難しさを照射する作品です。
 記者と母の二人旅が生む会話の妙味、社会の傷を過度に演出せず掬い上げる品の良さ、そしてジュディ・デンチの微細な表現が織り上げる人間の奥行き。
 見終えた後には、断罪だけでは届かない場所にある温かな強さが手のひらに残るはずです。

 それでは、映画とともに 素敵なラスク時間を

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