皆さん、こんにちは!
いつも東京ラスクオンラインショップをご利用いただき、誠にありがとうございます。
東京ラスク社員であり大の映画好きな私 Haruが、「おやつのお供に観たい映画」をご紹介していくこのブログ。
映画について語りつつ、ラスクに合う楽しみ方もちょっと添えて。
ぜひ、ラスクとお気に入り映画で心ほどける時間をお過ごしください。
第23回では、デスティン・ダニエル・クレットンが監督・脚本を手掛けたアメリカのヒューマンドラマを紹介します。
児童養護施設「ショート・ターム12」で働く若いスタッフや、心に傷を負った子どもたちが織り成す、繊細でリアルな成長と再生の物語です。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』で英ロックバンド、クイーンのフレディ・マーキュリーを演じたことで今や一流俳優となったラミ・マレックが、新人スタッフのネイト役で出演しています。
○ショート・ターム(2013年製作)
スタッフ・キャスト
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
グレース役:ブリー・ラーソン
メーソン役:ジョン・ギャラガー・ジュニア
ネイト役:ラミ・マレック
~あらすじ~
ティーンエイジャーをケアする短期保護施設で働くグレイス(ブリー・ラーソン)と、同僚でボーイフレンドのメイソン(ジョン・ギャラガー・Jr)。子供が出来たことをきっかけに、2人の将来はささやかながら、幸せなものになるかと思われたが……。誰にも打ち明けられない深い心の闇を抱えるグレイスと傷ついた子供たちの未来は……?
引用:MOVIE WALKER PRESS(https://press.moviewalker.jp/mv55858/)
◆見どころポイント◆
①登場人物のリアルな内面描写と成長の物語
『ショート・ターム』最大の特徴は、登場人物一人ひとりの内面や成長が徹底してリアリズムに基づいて描かれることです。
物語の舞台は、家庭に戻れない少年少女が一時的に生活する施設「ショート・ターム12」。施設で働くスタッフたちもまた、それぞれに心の傷や悩みを抱えています。
主人公のグレイス(ブリー・ラーソン)は、常に冷静で責任感が強いリーダーとして子どもたちに寄り添っていますが、彼女自身も心に深いトラウマを持ち、完全にはそれを乗り越えられていません。
登場する子どもたちは、家庭で虐待やネグレクトを経験した過去を持ち、他者への信頼を築くのが困難になっています。しかし、彼らはグレイスやメイソンらスタッフとの関わりから徐々に心を開いていきます。新たに施設にやって来た少女ジェイデンも、最初は自分を守るために他人を突き放しますが、グレイスの根気強い共感とアプローチにより、自分の感情と言葉で内面を表現し始めます。
この映画は、社会問題の側面を押し付けたり、説教的になったりすることなく、あくまで「個」の生き方と痛みを丹念に観察します。感情をむき出しにする場面もあれば、沈黙の中に本音がにじむ繊細なシーンもあり、観客自身も登場人物たちの心の起伏に寄り添わずにはいられません。
カメラは彼らの内面に寄り添っており、演出上の大袈裟さは排除されています。結果として、少年少女たちの心の揺らぎや、スタッフたちとの関係性がこれ以上なくリアリティをもって表現されています。グレイスや子どもたちの変化と小さな成長に、観るものは知らず知らずのうちにも希望の光を感じることができます。
②言葉にならない痛みと向き合うコミュニケーションの重要性
本作が深い共感を集めるもう一つの理由は、「言葉にならない痛み」との向き合い方や、そこに生まれるコミュニケーションの難しさや大切さを、余すところなく描写している点です。
施設の子どもたちは、虐待や精神的な傷によって言葉では表現できない思いを抱えています。スタッフであるグレイスやメイソンもまた、誰かに頼ったり、自分の弱さをさらけ出すことをためらっています。
作品の中で象徴的なのが、言葉や表現に困難を感じている子供たちが、絵や物語、音楽といった別の手段で内面を吐露するシーンです。特にジェイデンは、自作の絵本という形で自分の家庭の真実や感情を訴え、グレイスはそれを全身で受け止めます。その姿勢は、受け手がどう共感や理解を示すか、聴く・寄り添うという行為そのものの尊さを物語っています。
また、スタッフ同士の人間関係や、グレイス自身の家族との葛藤も、相手の気持ちを本当に理解しようと苦闘する様子で丁寧に描かれており、「誰かの痛みは簡単には分からない」という現実と、それでも諦めず寄り添おうとする姿勢の両方を示しています。そのため観る人もまた、自分が人と本気で向き合う時の覚悟や優しさについて考えさせられるはずです。
③繊細な映像表現と温度感のある空気づくり
『ショート・ターム』の独自性を大きく支えているのが、繊細であたたかな映像演出です。
手持ちカメラの揺れや、被写体に寄り添ったクローズアップ、自然光の柔らかい光使いなどが、終始リアリティと親密さ、時には不安や希望を巧みに表現しています。
登場人物たちの感情の揺れや、微細な身体の動きを捉えることで、台詞で説明しきれない心情や関係性を観客に伝えます。施設の中は飾り気や派手さから距離を置き、控えめな色彩と最低限の装飾で統一されており、一人ひとりの日常の質感や呼吸を肯定的に浮かび上がらせます。
また、音楽(アレックス・サマーズによるスコア)も主張しすぎず、人々の心の動きや空間の温度と緩やかに重なり合っています。
さらに、俳優陣の繊細な演技も大きな魅力です。主演のブリー・ラーソンをはじめ、ジョン・ギャラガー・ジュニアやケイトリン・ディーヴァー、ラキース・スタンフィールド、ラミ・マレックら若手俳優たちの演技が群像劇として高い説得力を発揮しています。彼らの抑制された中にも感情があふれる表現によって、「本当にそこに生きている」ような登場人物を実感できるのです。
まとめ
『ショート・ターム』は、児童養護施設を舞台に、心に傷を負った子どもたちやスタッフたちの痛み、葛藤、そして小さな希望をリアルかつ静かに紡ぎ出した傑作です。
きれいごとだけでは描ききれない現実を直視しつつ、登場人物それぞれの内面や成長、他者と関わる中で見えてくる「再生の瞬間」にしっかりと光を当てています。言葉の裏にある想いや、伝えること・受け止めることの難しさと尊さも細やかに描写されており、観る人は気付かぬうちに深い共感と感動を覚えるはずです。
映像や演技も含めて非常に完成度が高く、現代の社会や人間関係に悩む全ての人に観てほしい傑作です。
それでは、映画とともに 素敵なラスク時間を