~EO イーオー~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.22

~EO イーオー~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.22

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東京ラスク社員であり大の映画好きな私 Haruが、「おやつのお供に観たい映画」をご紹介していくこのブログ。

映画について語りつつ、ラスクに合う楽しみ方もちょっと添えて。
ぜひ、ラスクとお気に入り映画で心ほどける時間をお過ごしください。



第22回では、現代ポーランド映画の旗手イェジー・スコリモフスキ監督が2022年に発表した、1頭のロバの視点から人間社会の光と影を描く異色のロードムービーを紹介します。
本作はカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、世界中で大きな反響を呼びました。


○EO イーオー(2018年製作)



スタッフ・キャスト

監督:イェジー・スコリモフスキ


カサンドラ役:サンドラ・ジマルスカ
伯爵夫人役:イザベル・ユペール

~あらすじ~
愁いを帯びた瞳とあふれる好奇心を持つ灰色のロバのEOは、心優しきパフォーマー、カサンドラ(サンドラ・ジマルスカ)のパートナーとしてサーカス団で生活していた。だが、ある日、サーカス団が動物愛護団体から糾弾されたことを機に破産、どこかに連れ出されてしまう。予期せぬ放浪の旅のなか、EOの前に善人と悪人が立ち現れる。乗馬クラブの面々、農家や子どもたち、ポーランドのサッカーチーム、イタリア人司祭のヴィトー(ロレンツォ・ズルゾロ)、伯爵夫人(イザベル・ユペール)らと出会うEO。一頭のロバの目から見える世界とは、そして、そこから我々に投げかけるものとは……。

引用:MOVIE WALKER PRESS(https://press.moviewalker.jp/mv79585/)



◆見どころポイント◆


①ロバの視点から描かれる世界ー徹底した主観映像の革新性

 『EO イーオー』最大の特徴は、ほぼ全編にわたり主人公のロバEOの視点で人間社会が描かれる点です。

 従来のアニマル映画やロードムービーでは、動物は人間社会の“象徴”や“道具”として扱われがちでした。しかし本作では、EOの存在自体が本質となっており、スコリモフスキ監督は、可能な限りロバの視点に寄り添い、EOの言葉を代弁することに徹底しています。

 EOの目線で移り変わる風景、カットの連続、音の配置は、観客の五感を強く刺激します。周囲で起こっている出来事の意味は必ずしもセリフやナレーションで説明されません。むしろEOの表情や、彼の視界に映る人間の行動・感情が映像美とともに提示され、彼の戸惑いや恐れ、興味や喜びが瑞々しく映し出されます。

 こうした手法によって、観客はEOの主観世界へと引き込まれ、次第に人間中心でない「もう一つの地球の見え方」に気づかされます。この映画的体験は、非常に新鮮で刺激的です。

 感情移入の対象が、人間や明快な“善悪”ではなく、一頭の「ある存在」としてのロバであることが、観る人に根源的な問いを突き付けます。


②社会風刺と人間ドラマー“現代”ヨーロッパの断層

 EOが旅の途中で出会う人間たちは、いずれも現代ヨーロッパ社会の断層や歪みを象徴的に体現しています。

 サーカス団員の少女カサンドラの優しさ、動物愛護団体の熱意と行き過ぎた正義、「食用」としての動物、現代農業の機械化、サッカーファンの暴力、移民問題、資本主義社会の底辺……。それぞれのエピソードは、広範な社会規範や道徳への痛烈な風刺でもあります。

 しかし、監督は特定の立場や思想を一方的に押し付けることはありません。なぜなら、EO自身には“人間の物語”や“善悪”を解釈する機能がないからです。
 「善」も「悪」も、EOにとっては単なる“世界の現象”に過ぎません。観客はEOの受動的な体験を通じ、社会や人間の行動を客観視せざるを得なくなります。

 人間が抱える自己正当化や傲慢さ、不誠実、矛盾。そして、思いがけない優しさや無償の愛。
 動物という“他者”のまなざしによって、現代社会の継ぎ目が鮮明に浮かび上がり、強烈な社会批評性を放つのです。それは、寓話でありながら、現実そのものをえぐり出す迫力に満ちています。


③鮮烈な映像詩としての表現ー音楽・撮影・美術の融合

 『EO イーオー』のもうひとつの魅力は、圧倒的な映像美と詩的な演出です。

 ロバの曇りなき眼を通じて捉えられる北欧や東欧の自然、草原や森、村や町。暗鬱な倉庫や都市の灯り。不安げな空と霧。
 すべてが詩的かつ神秘的に撮影されます。特に赤色のライティングや、カメラのアイロニカルな切り返しショットは、情動を直撃します。

 音楽もまた見事です。パヴェウ・ミキエティンのサウンドトラックは、ときに神秘的、ときに悲劇的で、EOの旅に寄り添うと同時に観客の情感を揺さぶります。機械的な音、自然のざわめき、動物の声、人間の叫びが交錯するサウンドデザインは、映像体験としての映画を際立たせます。

 映像、音楽、美術、そして無垢なる存在であるEO。この四位一体による“映像詩”は、シンプルなストーリー以上の余韻と衝撃を残します。「人間とは何か」「世界はどこまで理解できるか」という問いを、観客自身の感性と想像力に語りかける表現の極致です。



まとめ

 『EO イーオー』は、一頭のロバの流浪を通して、人間の社会や倫理、現代の混迷する世界の輪郭を鋭く描き出す作品です。
 台詞や説明に依存せず、動物の視点そのものを映画的に追体験させる独創性、社会への痛烈な視線、そして詩的な映像表現ーこれらの総合的な力が、本作を「観る人に深い感情と根源的な問いを残す現代映画」として傑出させています。
 寓話的でありながら現実的、人間社会の姿をまざまざと映し出す“ロバの目”を通して、私たちが普段無意識に見逃しているもの、自分自身の在り方までも問い直される作品です。

 それでは、映画とともに 素敵なラスク時間を

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