~鳥~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.17

~鳥~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.17

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東京ラスク社員であり大の映画好きな私 Haruが、「おやつのお供に観たい映画」をご紹介していくこのブログ。

映画について語りつつ、ラスクに合う楽しみ方もちょっと添えて。
ぜひ、ラスクとお気に入り映画で心ほどける時間をお過ごしください。



第17回では、1963年に公開されたアルフレッド・ヒッチコック監督による動物パニック映画の傑作を紹介します。
日常の平穏を脅かす「不可解な恐怖」を描き出し、今なお高い評価を受けています。

個人的には、動物パニックものとして他と一線を画す超名作だと思っています!


○鳥(1963年製作)



スタッフ・キャスト

監督:アルフレッド・ヒッチコック


メラニー役:ティッピ・ヘドレン
ミッチ役:ロッド・テイラー
リディア役:ジェシカ・タンディ



~あらすじ~
サンフランシスコの社交界で暮らすメラニーは、青年ミッチを追って海辺の町ボデガベイを訪れる。そこで彼女は、突如として集団で人々を襲う「鳥」の恐怖に巻き込まれていく。



◆見どころポイント◆


①現実と非現実の境界を揺るがす「鳥」の恐怖

 『鳥』が与える最大の衝撃は、「なぜ鳥が人間を襲うのか」という理由が一切明かされない点にあります。

 大地震や洪水といった自然災害と異なり、本来穏やかで身近な存在である鳥たちが、ある時突然集団で凶暴化し、人間に襲いかかるーそこには合理的な説明も原因の提示もありません。この「説明なきパニック」が鑑賞者に与える不安は計り知れず、映画のラストまで観る者を飲み込んで離しません。

 ヒッチコックは、鳥が集結し、普段の日常が一転して恐怖に染まる瞬間を、緻密な演出で浮かび上がらせました。たとえば、登場人物が気づかぬ裏で静かにカラスが集まっていく小学校の遊び場のシーン。観る人に「何が起こるのか」という期待と緊張を抉り出します。

 「日常」が「非日常」に変わる境界線こそが、『鳥』の本質であり、説明不可能な現象に直面した人間の無力さや不安を露わにします。

 ヒッチコックが徹底して原因を提示しないことで、生物災害映画でありながらも、超自然的ホラーとの境界がぼかされ、「何が起きてもおかしくない」という漠然とした恐怖を現実のものとして突き付けてきます。

 心理的な不安や、科学や理性では太刀打ちできない異常事態ーこれを持続的に観客へ与え続ける点が、『鳥』の恐怖表現の核心なのです。


②映像表現と音響による不安と緊張の演出

 『鳥』が映画史に残るもう一つの要素は、「視覚」と「聴覚」両面を駆使した恐怖演出にあります。

 本作では、当時の最先端だった特殊効果を導入しており、また本物の鳥を使った撮影もふんだんに取り入れることで、大群の鳥に襲われる逼迫感をリアルに描き出しました。
 特に、メラニーが電話ボックスに避難する場面や、窓を打ち破ってカラスがなだれ込むシーンなどは「鳥への恐怖」を観客に直接体験させることに成功しています。

 音楽についても特筆すべきです。ヒッチコック作品で音楽(スコア)は大きな役割を果たしてきましたが、『鳥』ではあえてBGMを排し、鳥の鳴き声や羽音、ガラスの割れる音など「効果音」のみで構成するという挑戦的な手法をとりました。

 電子音響(トラウトニウム)を用いた不協和音は、聴覚的にも観客を不安に陥れ、「音によるサスペンス」を極限まで追求しています。
 不自然な静寂が緊張感を生み、鳴き声や羽ばたきが観客に突き刺さります。

 さらに美術面では、カメラワークによる圧迫感の表現、狭い部屋やガラス越しの視界など、「逃げ場のなさ」も丁寧に描写。恐怖体験をリアルに追体験させる、ヒッチコックならではの「計算された画面設計」も本作の大きな見どころと言えます。


③人間ドラマと寓話的な背景

 一見、鳥によるパニックが中心の本作ですが、登場人物たちの心理や人間関係も緻密に描かれています。

 特に主人公メラニーとミッチ、その母親リディアを取り巻く「疑心」「孤独」「親子の軋轢」といったテーマが随所に織り込まれ、単なるモンスター映画では終わりません。

 町に馴染みのないメラニーに対する閉鎖的な町の人々の反応や、母親のリディアが抱く「家庭を脅かされる恐れ」など。鳥の襲来をきっかけに浮き彫りになる「人間の弱さ」が、ストーリーにより深みを与えます。

 鳥は単なる動物災害の象徴に留まらず、人間社会への警告や不安、あるいは道徳的制裁といった寓意も孕んでいます。
 この点については映画公開当時から様々な解釈があったようで、フェミニズム的な文脈や、「自然と人間の関係性」への含意など、多面的な読み取りが今も議論されています。

 ヒッチコック映画の特徴である「サスペンスと人間の心理劇の融合」がここにも現れており、パニックに直面した時の人間の連帯や葛藤、自己中心的な振る舞いなど、さまざまな「人間模様」をリアルに描写しています。
 鳥の脅威が無差別に襲いかかることで、登場人物たちは内面の恐怖とも向き合わざるを得なくなり、この「内的な変化」こそが物語を豊かなものとしています。



まとめ

 『鳥』は、理由なき恐怖と日常崩壊を、映像と音響の力で鮮烈に表現したサスペンスの金字塔です。
 物語の根幹に「説明不可能な恐怖」という余白を残すことで、観る者に「もし自分がこの状況ならどうするか」という普遍的な問いを投げかけます。圧倒的な映像表現と、無音・不協和音を巧みに操る音響、そして鳥によるパニックの裏で描かれる人間ドラマと寓意性ーすべてが絡み合うことで、単なるパニック映画に留まらない深みと後味をもたらしています。
 理屈ではなく「恐怖そのもの」と対峙したい方には、今なお鮮烈な体験を与えてくれる一本です。

 それでは、映画とともに 素敵なラスク時間を

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