~イニシェリン島の精霊~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.15

~イニシェリン島の精霊~ 東京ラスク社員が紹介する おやつの時間におススメな映画 Vol.15

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東京ラスク社員であり大の映画好きな私 Haruが、「おやつのお供に観たい映画」をご紹介していくこのブログ。

映画について語りつつ、ラスクに合う楽しみ方もちょっと添えて。
ぜひ、ラスクとお気に入り映画で心ほどける時間をお過ごしください。



第15回では、アイルランドの孤島を舞台に、親友同士の断絶とそれによって引き起こされる孤独・葛藤を描いた人間ドラマを紹介します。
第95回アカデミー賞では、作品賞や監督賞など主要部門を含めて9部門にノミネートされ、世界中で絶賛されました。


○イニシェリン島の精霊(2022年製作)



スタッフ・キャスト

監督:マーティン・マクドナー


パードリック役:コリン・ファレル
コルム役:ブレンダン・グリーソン
シボーン役:ケリー・コンドン
ドミニク役:バリー・コーガン

~あらすじ~
アイルランド本土が内戦で揺れていた1923年、島民全員が顔見知りの平和なイニシェリン島でパードリックは長年の友人、コルムに突然絶縁を突きつけられた。絶縁の理由がつかめず混乱したパードリックは、賢い妹や風変わりな隣人の助けで事態を解決させようとする。しかしコルムから、これ以上関わるのならば自分の指を切り落とすと宣言され、拒絶されてしまう。

引用:MOVIE WALKER PRESS(https://press.moviewalker.jp/mv78227/)



◆見どころポイント◆


①“友情”が壊れる瞬間を繊細に描く脚本とキャラクター

 『イニシェリン島の精霊』の物語の核は、パードリックとコルムという二人の男の友情の“終わり”にあります。

 主人公パードリックは、善良で素朴、そしてやや鈍感な男。一方でコルムは、音楽や芸術に傾倒し、人生の“意味”や“時間の有限性”について思い悩む思索的な人物です。

 コルムは「君とは話したくない」と突然絶縁を宣言し、パードリックはその理由すら教えられず、精神的に追い詰められていきます。

 この一方的とも思える断絶がむしろ普遍的な“すれ違い”の根源を浮き彫りにしています。
 親しい関係であっても、どちらかが変化したとき、相手はその理由も本質も理解できないまま取り残されるーその心のズレを、丹念に、そして本質的に描ききっています。

 また、脇役たちも個性的で、パードリックを支える姉のシボーン、孤独な青年ドミニク、それぞれが“孤独”と“自尊心”を抱え、島の息苦しい社会の一部として丁寧に描写されています。

 脚本の力強さと出演者一人ひとりの表現力が、物語をより深く立体的にしています。


②孤独と絆が交錯する舞台設定と雰囲気

 本作の大きな魅力の一つは、舞台となる“イニシェリン島”の圧倒的な孤立感と大自然が生み出す独特の雰囲気です。

 息を呑むような美しい海岸線、羊や馬が静かに草を食む牧歌的な景色。

 その一方で、外界から隔絶された小さな島で生まれる人々の閉塞感や、逃れられない孤独が、静かに画面からにじみ出ています。この島には、物理的な距離だけでなく、心の距離も強く感じられます。

 登場人物のほとんどが、島という“世界”の外側に手を伸ばせず、孤独と向き合う日々を営んでいます。自然とは相反する、人間のエゴや不安が静かに流れており、観るものにも息苦しさと寂しさを痛感させるのです。

 精神的に行き詰まりを感じる現代人にとって、舞台そのものが人生を映し出す“鏡”のように機能している点が、特筆すべき見どころです。


③俳優陣の圧倒的な演技力

 本作の感情のうねりや繊細な葛藤を説得力のあるものにしているのが、俳優陣の卓越した演技です。

 パードリックを演じたコリン・ファレルは、時に愚直なまでに誠実で優しく、傷ついた男の純粋さと弱さを静かに滲ませています。

 コルム役のブレンダン・グリーソンは、内面の苦悩や孤独、諦念を多くを語らずとも目線や表情のわずかな変化で表現。無口で頑固な彼の人物像に深みを与えています。

 シボーン役のケリー・コンドンは、聡明さと傷つきやすさ、兄を想う優しさをにじませ、その存在によって物語世界に奥行きをもたらします。

 そしてドミニク役のバリー・コーガンは、不器用な若者の押し殺したやるせなさを体現し、観る者の心に強い印象を残します。

 どの俳優も感情を過剰に表現することなく、内面の葛藤を丁寧に表し、本作の空気感と余韻をよりリアルなものに昇華させています。

 ちなみにこの4名はこの年のアカデミー賞の演技部門にそれぞれノミネートされました。個人的は特にケリー・コンドンの演技が大好きです。この年のアカデミー助演女優賞は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のジェイミー・リー・カーティスが受賞しましたが、私的には本作のケリー・コンドンの方が推しでした。



まとめ

 『イニシェリン島の精霊』は、舞台となる自然と社会の閉塞感、その中で浮かび上がる人の心の隔たりや孤独、そしてそれに立ち向かおうとする登場人物たちの細やかな心理描写が見事に交錯する作品です。特に俳優陣の抑制された中にも力強い演技が、物語の本質を鋭く浮き彫りにしており、観る者に静かな衝撃と余韻を残します。
 人間関係の儚さや人生について考えさせられる、深く胸に響く一作です。

 それでは、映画とともに 素敵なラスク時間を

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